YOU−+、もうひとつの現場 《原子ギター》

今日は2012年1月12日ですね。

このブログは年を跨いでも、続くのです。

なぜなら、ちょうど2ヶ月前の2011年11月12日。

island ATRIUMではYOU−+の一環で、柏市内でもうひとつのプロジェクトが静かに進行していたのです。

山川冬樹による《原子ギター》のインスタレーションです。

柏市の二番街商店街の某店舗前に設置されました。

休日とあって、にぎわう商店街に響く人の声。

BGMとして流れる流行歌。

その中で原子ギターはまちに「流れる」放射性物質を感知し、弦を震わせます。

突如耳をつんざくようなノイズ、雑踏に消え入ってしまう微細な音。

柏、いえ、日本が今置かれている状況を知覚することが可能なサウンドスケープを創り出していました。


「そこで、あなたか何を差し出し、何を受け取るか。」


これはフライヤーに企画者・橋本匠が書いた一文です。
《原子ギター》を見た後に、この一文を読むと様々な想いがわき上がります。

(コーディネーター:清水)

YOU−+ 当日の記録

遂に写真解禁!
お待たせした皆様申し訳ありません。


トップバッターは山川冬樹
この日は骨伝導マイクを用い、心音と電球の光をシンクロさせました。

奏でられるホーミーとギターの重低音は、観客の心音ともリンクするかのように会場内に響き渡りました。自分の最も身近にある「心音」そして「声」が視覚化された会場空間は、観客を原初的な感覚へと誘ったのではないでしょうか。


二番目には松本祐一が登場。
この日は自身の代表作《アンケート・アート》を朗読し、ヴァイオリニストがそれに併せて演奏するという豪華な内容でした。

ちなみに《アンケート・アート》とは様々な問題に対する意見をアンケートによって集め、音楽に変換する方法です。回答のテキストを品詞分解し、品詞の種類により音程を決め、単語の長さを音符の長さとして、メロディを作り出すという作曲法です。アンケート回答の文章を分解し、言葉の意味に囚われず文章の構造のみを用いて音楽に抽象化し、テキストとその音楽を提示します。

淡々と語り出される様々なレイヤーに生きる人びとの言葉。普段私たちがTVや新聞で接するような、現代社会をオーバーにあぶり出し、報道しようという姿勢とは異なった「現代」が描かれていました。
また会場内では、アンケートも実施されていましたので、次回作には柏に訪れた人びとの言葉がひとつの曲を生成させるのでしょうね。楽しみです。


三番手のパフォーマーは伊東篤宏。
自作の音具「OPTRON」を用いて、演奏。

ちなみにOPTRONは蛍光灯が点灯時に発生させる微弱なノイズをピックアップで増幅し、アンプリファイし、 空間を光と音で満たすことのできる装置です。OPTRONが産み出すノイズ、そして光は観客の視覚・聴覚を刺激し、享受者はその光と音の「残像」「残響」に身を委ねていました。終演後、人びとはその余韻の中に何を見出したのでしょうか。


そしてラストは企画者でもある橋本匠。

彼は身体を駆使しパネルに象形文字を描き、それが乾き文字が変化していく中でパフォーマンスをおこないます。この日は「マグロ解体ショー」から始まり、複数のパネルに文字を描き、ほぼ即興で演じ上げました。時折観客と言葉を交わし、観客から発せられた言語を拾い上げ、そのシニフィアンから自ら新たなシニフィエを見出し、パフォーマンスをほぼその場で創出していきました。会場中を駆け回り、身体によって紡ぎ出される言葉、そして言葉によって紡ぎ出される身体を披露しました。


私の拙文では伝わらないことも多いかと思いますが、改めて書いていて思ったのはパフォーマンスは一回性、偶然性が高い芸術ジャンルです。しかし橋本の即興パフォーマンスのように「いま、ここで」しか成立し得ない必然性の高いジャンルであるようにも思います。パフォーマンスというジャンルが細分化・多様化していく中で、今後どのような関係性(YOU−+)が生まれていくのか、個人的に可能性を感じさせるイベントとなりました。

twitterなどでYOU−+の感想を見つけると、「お」となって読んでしまうのですが、感想はやはりひとそれぞれで、観客の皆さんが享受したものはさまざまだということを当たり前ながら再確認しました。そして皆さんがその体験を今後の生活の中で、ふと思い出し誰かに伝えること――このような行為によって「YOU−+」という関係が成立していくのではないでしょうか。

(文:コーディネーター清水彩)
(写真:野口健吾)

YOU−+無事終了いたしました。

盛況のうちに終了いたしました!

ご来場くださった皆様、本当にありがとうございます!

ご覧になれなかった方も、随時写真などUPしていこうと思いますので、
引き続きblogを閲覧していただけたらと思います。

応援してくださった方、本当にありがとうございました!


企画・コーディネーター:清水彩



「YOU−+(ユビキタス)」とは、パフォーマンスというジャンルの特性を一般的な「ユビキタス」と対比して表現した造語です。小型かつ高度化された携帯端末。ソーシャルネットワークサービスの隆盛。電子マネーGPS技術。現在の高度情報化・ハイテク社会は「ユビキタス社会」と呼ばれ、その技術は見えないところから「いつでも、どこでも、だれでも」に恩恵を授けます。私たちは「このような時代において」パフォーマンスイベントを開催することの意義を探り、かたちにしていきます。パフォーマーにとってコミュニケーションの対象は、現場の「実際に見える範囲」にしか存在しないという点で常に「you・二人称」です。
「−+」とは、(あなたから)何かを「もらう/与える」というパフォーマンスにおける双方向的なコミュニケーションを表しています。
そこであなたが何を差し出し、何を受け取るか、あなた自身の目で目撃してください。



出演アーティスト
橋本匠
伊東篤宏
山川冬樹
松本祐一




企画者
橋本匠
清水彩

コーディネーター
清水彩

音響
西原尚

フライヤーデザイン
服部紫野

会場
island ATRIUM 〒277-0024 千葉県柏市若葉町3-3

問合せ
《YOU−+》実行委員会 youbikitasu2011[a]gmail.com

遂に…

YOU−+の開催が明日に迫りました!

本日コーディネーター清水は柏市内某所で、ポスターやその他諸々のイベントに必要なものを用意しておりました。

淡々黙々…とデスクワークをこなしていると、時間も刻々と過ぎ…。


それはさておき、昨日のblogにイベントに際しての注意事項を書きましたので、お越し下さる方はご一読くださるようお願いいたします。(「昨日のblog」にリンクが貼ってあります。)


会場となっているisland ATRIUMは、明日13時よりオープンスタジオをしております。

普段island ATRIUMで活動をされているアーティストの方々のアトリエが見られますので、こちらもよろしければ是非足を運んでいただければと思います。

地図をお持ちでない方はこちらからダウンロード可能なので、ご活用ください。

「アートラインかしわ」アクセス


それでは明日、皆様にお目にかかれることを出演者・スタッフ一同楽しみにしております!

当日のご案内

YOU−+もあと2日後に迫りました。
当日のご来場に際しいくつか注意点がございますので、当ブログにてご案内させていただきたく思います。


1)当日は混雑が予想されるため、入場制限をさせていただく場合もございます。お早めにお越し下さるようお願いいたします。

2)大きな音量でのイベントになりますので、近隣の住民へご迷惑をおかけすることを防ぐために、基本的にライブ途中での入退出は不可とさせていただきます。
※万が一退出したい場合はお近くのスタッフにお声がけください。

3)上演中のフラッシュ撮影は出演者のパフォーマンスの妨げとなりますので、一切を禁じます。

4)近隣の住民のご迷惑になりますので、会場周辺での喫煙はご遠慮ください。

5)イベント終了後は近隣の住民にご迷惑をおかけしないよう、会場周辺でのご歓談はご遠慮ください。

6)会場内にはゴミ箱は設置されておりませんので、全てお客様自身でお持ち帰り頂くようお願いいたします。

7)会場内・外で発生した盗難は主催者・会場・出演者は一切責任を負いません。

8)報道関係者の方で取材をおこないたい場合は、イベント開始前にお近くのスタッフにお声がけ下さい。

9)会場には駐車場がございません。お近くのコインパーキングをご利用ください。

色々と注意事項が多く、大変恐縮ですがイベント運営を円滑に進めるため、ご協力いただきますようお願いいたします。

田中泯《場踊り》

1週間前になりますが、「アートラインかしわ2008」にも招致された田中泯さんの《場踊り》を見てきました。

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2011年10月21日午後1時50分頃、岩手県花巻市の土沢駅から約2kmの旧県交通バス修理工場の前には、俄に人が集まり始めていました。彼らの目的は舞踏家・田中泯さんによる「場踊り」。——彼がライフワークとして続けているこの踊りが土沢で毎年開催されている「アート@つちざわ」の一イベントとして披露されました。

午後2時を回った頃、会場に設置された原口典之による巨大な金属彫刻のインスタレーション《ファントム》の周囲を観客がぐるりと囲みました。《ファントム》は鉄製でありながらも、丁度乗客を乗せる部分が空洞になっており、その構造の支持体が剥き出しでどこか危うさを感じさせます。数分程した後、工場奥にある向かって左の窓ガラスに田中の姿が現れた。外はやや曇天模様で、日差しの強かった午前とは打って変わって涼しい秋風が会場にいる観客の顔をなぜていました。窓ガラスに張り付いた田中さんは、右手を天に向かって伸ばしてその風を掴むかのように、ゆっくりと拳を握ったり開いたりし、時折空を仰ぐ。観客は彼の一挙一動を見守っていました。そして田中さんは窓から姿を消し、残された観客は彼が何処へ行ってしまったのかを探そうと会場内をゆっくりと歩き始めました。

そして数分後、鈍い音が会場内に響きました。音のした方へと目をやると、田中が先ほど自らが覗き込んでいた窓ガラスを固く握った拳で割っていたのです。一枚のガラスが割れ、ゆらりと半身を見せた田中さんは、もう一枚のガラスをも叩き割りました。その後、彼は窓に正方形状にめぐらされた狭い格子をくぐり抜け、会場のアスファルトに足音ひとつ立てず降り立ちました。そろり、そろりと飛行機に近づき、時に機体に畏れを抱いているかのように触れ、そして時に自らを鈍く輝く銀色の物体に溶け込ませるかのように身体を這わせます。次第に右の翼へと近づき、おそるおそる手を触れては離します。終いには約175°ほど開いた二枚の翼の右翼の下へとごろりと寝転がります。四肢を上方へ上げ、翼の裏側をじっと眼差しています。田中さんは視えない何かに抗う赤子のように、手足を翼に向け屈伸させます。しかし彼のそのおこないが赤子と異なっているのは、一つ一つの挙動に力がこもり緊張を絶え間なく張り巡らせているところです。やがて彼はゆっくりと両足で再びアスファルトの大地に立脚し、ふらふらと何かに憑かれたかのように左の翼の後方——機体の腹部へと向かいます。田中さんはあたかも《ファントム》という巨大な「母」のような存在に護られているかのように、機体へと身体を密着させます。

しかし、ふとした瞬間にまた空気が変りました。田中さんが光の射す窓へと目をやっています。窓へと近づきながら彼は、ゆっくりと両手を広げ始めます。その両腕の角度は、正面から目撃している観客達には彼が背にしている《ファントム》の両翼とオーバーラップして見えています。翼を広げた田中さんは、窓から飛び立とうとしますが、そこには物理的に超えられない堅固な壁があります。壁は彼の行く手を他意なく阻みます。しかし阻んでいるのは壁だけではありません。そう、重力です。何度か田中さんは壁との衝突を繰り返した後、諦観したのか、しなやかに広がっていた自らの翼を、緩やかに重力が促す方へと降ろし、また最初のように拳を強く握り締めました。——そののち、彼が窓から射す西日を背に、照れたような笑みを浮かべ観客の方へ振り返った瞬間に、会場を取り巻いていた緊張感がほぐれ、拍手がわき起こりました。

「場踊り」——これは彼が長年続けて来た作品名です。その長い年数を鑑みた時、彼がどれだけ踊る「場」に対し、思考を重ねた上で舞って来たかがよく分かります。旧県交通バス修理工——田中さんはあの「場」に何を見出したのでしょうか。彼が触れた窓、鉄格子、飛行機、壁——これらは全て人工物です。そして同時に無駄な装飾が施されていない堅固な物質性を剥き出しにしたオブジェなのです。それらに対し、田中さんは薄い衣服を纏ってはいるが、ほぼ身一つで向かっていきました。時に恐怖や畏敬、そして「母」に対するような愛情を示しました。これまでの考察をみたとき、あの「場」で発露したのは、自然と人工物の単純な二項対立ではないと考えられるでしょう。むしろあの「場」で田中さんが見出したものは、二項の間にうずまく差異や矛盾を超えた根の深い葛藤なのではないでしょうか。

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少し長くなってしまいましたが、まちなかでパフォーマンスをおこなうこと、またYOU−+が重視して来た現場で「目撃」すること。田中さんのパフォーマンスを見たことで、様々な思いが去来し、11月の本番に向けて思索をめぐらせる良い契機になりました。

そうそう、最近イベントについて友人や知り合いから「楽しみにしているよ」などと声をかけていただく機会が増えました。こうした期待の声に応えるためにも、残り少ない2週間を大切に使っていきたいと思います。

(コーディネーター:清水)

東京藝術発電所「発電ライブ・パフォーマンス」!

本日東京藝術大学に東京藝術発電所というプロジェクトの「発電ライブ・パフォーマンス」を見に行ってきました。

中に入ってみると、

こんなMTBが4台程。
どうやら今夜はこれを使って自家発電し、演奏をする模様!

前々回の記事でも書きましたように、今夜はYOU−+の出演者である伊東篤宏、山川冬樹が出演しました。

最初は山川さんがホーメイ倍音)でご挨拶。
曲はKraftwerkの「Radioactivity」。
(参考までにYouTube
自家発電なので、自転車をこぐ人がばててこぐのを止めてしまうと、当然ながら音が出なくなり絶妙に「不安定」な演奏となってしまうのです。

そして伊東さんによる蛍光灯の放電ノイズを拾って出力する「音具」、OPTRONを使っての演奏。
こちらも勿論自家発電。

続いて伊東さんと山川さんが自家発電をしながら、ホーメイにて美輪明宏の「ヨイトマケの唄」を披露。

最後に2人のセッション!

山川さんは骨伝導システムやシンバルなどの打楽器を用いて、身体を駆使したパフォーマンス。
それに伊東さんが奏でるOPTRONの重低音、ノイズが相俟って会場全体に轟音と倍音が鳴り響きます。
ちなみに身体を「駆使」しているのは彼らだけではありません。
交代で4台の自家発電自転車をこいでいる観客もまた、パフォーマーとなっていました。
(私もちゃっかり、終演後にこがせてもらいましたが、ペダルが非常に重くて過酷なものでした…。)

その後トークがおこなわれ、東京藝術発電所がおこなわれるきっかけや、3.11のことなどについて出展者がトークセッション。
山川さんや伊東さんの言葉の中で印象に残ったのは、自家発電をすることでうまれる「贈与」という言葉。
――もらう、与える――という行為によって成立するもの。
これはまさにYOU−+的ではないかと思い、興味深く拝聴させていただきました。

最後に告知があり、企画者の橋本と清水が簡単にYOU−+のアナウンスをさせていただきました。

2人のパフォーマンスを見たことで、イベントに向け改めて身が引き締まる思いでした。
イベント本番まであと26日!
着々と準備を進めていきたいと思います。


コーディネーター:清水